榊監督。俺は監督の考えや方針に賛成しているし、指導も素晴らしいと思う。だから、俺は監督を尊敬している・・・いや、していた、になるかもしれない。


「跡部、いつも通りに練習をしておけ。」

「はい。」

「それから、。いつも通り、報告を。」

「はい、わかりました。」


そうして、監督とはコートから離れていった。とは言っても、練習は見える位置がいいらしく、俺たちからも、2人の姿は、はっきり見える。
あれは報告なんだ。別に疚しいことなど無い。そうわかっているのに、2人が視界に入ると、すごく不安になって、イライラもしてくる。
だが、時折、は顔を赤くしながら、やたらと嬉しそうに報告しているときがある。それを見ると、さすがに何かあるのではないかと勘繰ってしまう。・・・いや、何も無い。そうに決まっている。
当然のことに、なぜ俺がここまで悩み、イライラするのかがわからない。そして、本当に監督を尊敬できなくなっているかもしれない。


「おい、日吉!集中しろ!!」

「・・・はい!すみません。」


そんなことを考えていたら、跡部部長に注意されてしまった。・・・全く、情けない。
気持ちを切り替えて、練習をしようと思った・・・が、やはり2人が気になって、そっちを見てしまった。しかし、そこには監督の姿しか無かった。
・・・あれ、は?


「日吉。ちょっと来て。」

「・・・あぁ。」


探していた人物が、突然後ろから声をかけた。・・・さすがに、俺も驚いた。
しかし、その後も俺は驚いた。に呼ばれ、日陰に行くと、が俺の額に手を当てたからだ。


「・・・熱は無い、ね。・・・とりあえず、これ飲む?」

「いや、大丈夫だ。・・・どうしたんだ?監督への報告は?」

「日吉が注意されるなんて滅多にないから、どこか具合でも悪いのかと思って、急いで戻ってきたんだよ。監督への報告も大事だけど、マネージャーにとって1番大切な仕事は、部員の変化に気付くことだからね。・・・それで、大丈夫なの?」

「・・・大丈夫だ。」

「そっかー・・・。よかった。でも、無理はしないでね。・・・ちょっと、顔でも洗ってくる?」

「・・・そうだな。そうさせてもらう。」

「じゃ。はい、タオル。」

「ありがとう。」

「いえいえ。」


に笑顔で見送られ、俺は顔を洗いに行った。・・・本当に、俺は情けない。こうして、が立派にマネージャーの仕事をしているときに、一体俺は何を考えてたんだ。監督にも八つ当たりをして。
顔を洗うと同時に、俺は今まで考えていた邪念を一気に洗い流した。
そして、冷静になってコートに戻る途中、ふと気付いてしまった。監督が見ているときに、俺は注意されてしまったということに。・・・さすがに何か言われるだろうと思いながら、戻ると。


「おかえり。日吉、大丈夫?」

「あぁ。おかげで、集中できそうだ。」

「よかった。でも、その前に。監督が呼んでるよ。」

「・・・わかった。」


やはり、そうなったか。しかし、俺が悪かったのだと覚悟を決め、監督の元へ向かい、先に謝った。


「すみませんでした。」

「具合は大丈夫なのか。」

「はい。ただ、集中できていなかっただけです。すみません。」

「そうか。無理はするな。」

「はい、大丈夫です。」


怒られると思っていたが、意外にも監督は俺の体調を気遣ってくれた。


「ならいい。・・・が、それなりのペナルティーは受けてもらうぞ。」


・・・やはり、何も無いわけはないか。


「はい、わかっています。」

「今日の部活の片付けは、マネージャーのを手伝うこと。いいな?」

「え・・・。それでいいんですか・・・?」

「日吉。マネージャーの仕事も、決して楽ではない。」

「それは、わかっています。マネージャーの仕事を軽く見て、そう言ったわけではありません。」

「なら、それでいいか?」

「・・・はい、わかりました。」

「では、行ってよし。」

「はい、ありがとうございました。失礼します。」


マネージャーの仕事が大変なのは、わかっている。ただ、俺にとってはペナルティーでも何でも無い。と過ごす時間が増えるだけだ。・・・やはり、監督は尊敬しようと思ってしまった。




***** ***** ***** ****** *****




今日は、久しぶりに高等部の部活動に参加することができた。何かと忙しく、残念ながら、なかなか部活動へ来ることはできない。中等部と高等部のテニス部を掛け持ちしている所為でもある。


「跡部、いつも通りに練習をしておけ。」

「はい。」

「それから、。いつも通り、報告を。」

「はい、わかりました。」


練習メニューは、中等部時代から信頼のある、部長の跡部に任せられる。そして、私が来られなかった間のことは、全てマネージャーのに報告してもらっている。
今日もは、部員1人1人の様子をまとめたノートを片手に、自分自身が気になった点、本人や周りから見て気になった点、他に弱点を克服できたことなどを話してくれた。
特に、日吉の報告となると、はわかり易いほど、嬉しそうに話す。もちろん、報告の量は贔屓なく、皆同じぐらいの時間をかけて話すが、の表情や声のトーンは、どうしても変わってしまうようだった。


「おい、日吉!集中しろ!!」

「・・・はい!すみません。」


そんな声にも、はすぐに反応した。日吉の名が入っていたからだろう。


「監督、すみません。少し、戻ってもいいでしょうか?」

「どうした。」

「あの・・・。日吉くんは報告の通り、いつでも集中して練習に取り組む選手です。あんな風に注意されることは、滅多にありません。なので、もしかすると、彼の具合が良くないかもしれないので、見に行ってもよろしいでしょうか?」

「わかった。ただし、具合が戻れば、日吉にはこちらに来るように伝えてくれ。」

「わかりました。それでは、失礼します!」


は急いで、日吉の元へ向かった。・・・これほど、日吉の心配をするとは。そこまで、日吉を気にかけているのだな。
日吉は1度、コートを出て、の所に戻った。そして、私の所に来た。


「すみませんでした。」

「具合は大丈夫なのか。」

「はい。ただ、集中できていなかっただけです。すみません。」

「そうか。無理はするな。」

「はい、大丈夫です。」


本当に、具合は悪くないみたいだった。それならば、なぜ集中できていなかったのかと問い質そうとしたが、これは私の所為かもしれないと思った。
そう、確か日吉も、を気にかけていたはずだ。そう思って、私は鎌をかけてみた。


「ならいい。・・・が、それなりのペナルティーは受けてもらうぞ。」

「はい、わかっています。」

「今日の部活の片付けは、マネージャーのを手伝うこと。いいな?」

「え・・・。それでいいんですか・・・?」

「日吉。マネージャーの仕事も、決して楽ではない。」

「それは、わかっています。マネージャーの仕事を軽く見て、そう言ったわけではありません。」


やはり、私の記憶は正しかったようだ。おそらく、日吉にとって、の協力をすることはペナルティーにならないと思って、このような反応をしたのだろう。


「なら、それでいいか?」

「・・・はい、わかりました。」

「では、行ってよし。」

「はい、ありがとうございました。失礼します。」


最後、少し嬉しそうに、そう言って立ち去った日吉を見て、私は更に確信した。
私は生徒の部活動も、勉強も、そして恋愛も、応援してやろうと、日吉の背に誓った。













高校生設定にしてしまったばかりに、榊監督の御仕事を増やしてしまいました(笑)。勝手に高校の方とも掛け持ちさせてしまい、申し訳ございません・・・!
とりあえず、榊監督もちゃんと応援してくださる様子を書きたかったのでした。

それにしても、日吉くんは心配性すぎだと思います(笑)。と言うか、「これは絶対好きだろ?早く認めろよ」と思いますっ!

('09/11/13)